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●モー娘。結婚式 殺人事件●

1 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/05/01(火) 05:15 ID:/1yiD5x2
― 登場人物 ―
裕子・・・主人公。30歳を迎えめでたく本日結婚
光男・・・裕子の結婚相手。職業ミュージシャン、音楽プロデューサー

問題編、スタートです!


356 名前:どっちの名無しさん?  投稿日:2001/07/08(日) 01:40 ID:BosWanGs
もう日曜ざますよ。

357 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 20:53 ID:E3LGpDss
「致命傷となる3度目にナイフを刺したのは・・・つんくさん、本人です」
私はこの事件最後の犯人の名を言った。正確には犯人ではないのだが。
「つんくさんが・・・自分で自分を?」
保田さんの問いかけに「そうです」と答えた。
「辻はそれを見たんだ・・・」
吉澤さんが辻さんの方に顔を向けた。辻さんが深くうなずいた。目には涙を浮かべていた。
「もう一度写真タイムの時の1枚の写真を思い出してください。
辻さんが下を向いていて、すごくびっくりしたような顔でつんくさんの右脇を見ていたものがあったでしょう?
あの時、辻さんはつんくさんを刺してしまった事に怯え、そして心配し傷の辺りを凝視していました。
しかしつんくさんは何事もなかったかのように普通に振舞っていました。
写真タイムも終わり、式は何事も無く続きます。
辻さんはずっとつんくさんから目を離せませんでした。
そして・・・式も終盤、花束贈呈となりました。
一瞬開場は暗転になり、スポットが高砂の新郎新婦を照らします。
中澤さんが先に前に出ます。つんくさんはその後からついていくような形になりました。
結婚式とは花嫁さんが主役です。スポットも中澤さん中心にあたっています。
光がつんくさんにあたっていない瞬間が、ビデオで確かにありました。
たぶん・・・。立った時に本能的に何か感じたのでしょうか?もう、ダメだと・・・。
つんくさんはその時服の上からナイフをグッと深く突き刺したようです。
辻さんは暗くて見えづらかったけど、右の手のひらを右脇腹に手を当てるつんくさんを見たのです。
手のひらをあのナイフの位置に押し当てたつんくさんを・・・」
「うう・・・」
ポロポロと涙をこぼしながら、辻さんがまた泣き出した。
「つんくさんが・・・最後の犯人・・・」
気の抜けたような声で、石川さんがつぶやいた。
「そんな・・・」
矢口さんが口を手で押さえながらうつむいた。

358 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 20:54 ID:E3LGpDss
「・・・以上がこの事件の全てです」
ためいきが部屋中に響く。
みんな泣いていた。声を出さずに。静かに・・・。
市井さんだけがまた泣いていなかったが、さすがに事件の全貌を知りうつろに目を傾けていた。
・・・悲しい事件。
リーダーと慕っていた人が犯人。
仲間の1人が事故とはいえ刺してしまった事実。
そして・・・その行為をかばうために自分を刺しそれが致命傷となった、自分達の生みの親とも言うべき人の死。
明らかに落胆している彼女達に、何と声を掛けていいのかわからない。
1人の刑事としては何もなくても、1人の人間として何か言葉を掛けたい。

その時コンコンと部屋をノックされた。
「終わりましたでしょうか・・・?」
事務所の社長が顔を出した。
「あ、はい」
「どうも、ご苦労様でした」
ペコッと礼をされ、私も礼を返した。
もう帰って下さい、という無言の態度を読み、私は署に戻る事にした。
「皆さん・・・どうか・・・気を落とさずに・・・」
これが私がモーニング娘。達に言える、慰めの言葉だった。
刑事としてではなく、ファンとしての。
安部さん、飯田さん、福田さん、石黒さん、矢口さん、保田さん、市井さん、
後藤さん、吉澤さん、石川さん、辻さん、加護さん・・・。
皆が小さく頭を下げてくれた。
「失礼します」
そう言って私は事務所を後にした。

359 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 21:01 ID:FUCRwsYU
― エピローグ1 福田(1) ―

刑事さんの話が終わり事務所で解散となったので、私は1人タクシーで帰る事にした。
行き先を告げると、ゆっくり車が動き出す。
あまりにいろいろな事がありすぎて頭の中がごちゃごちゃになっていた。
後に流れる景色を見ながら私は1つ1つ整理していく。

「みんな表面はいい子だもんね。でも実際心の中はドロドロしてんでしょ?
アタシ知ってんだよ」

サヤカはあの日――結婚式の日、ホテルの部屋ででこう言った。
なんだか心を見透かされたようで私はうつむいた。
その時矢口が怒りを爆発させて怒鳴った。
「あんたなんか、仲間じゃない・・・!例え・・・心に何か押し隠している物があったとしても、
全て言えばいいってもんじゃないっ。そんな人の心こじ空けてどうしようっていうの?
あんた、自分が孤独だからって人も巻き込もうとしてんじゃないの?
帰れ、帰れ、帰れ、帰れ!!」
「そうだ!帰れ!」「帰って!」皆が口々に叫んだ。
後藤さんだけが何が何だかわからないといった様子でオロオロしていた。
サヤカはグッと私達をただ睨み続けるだけ・・・。
圭ちゃんがサヤカの手を取り、半ば強引に玄関へ連れて行った。
小さな声でサヤカに囁いて、何か言いたげなサヤカを力任せにドアの外に追いやった。
おとなしく帰ったようで、その後部屋には静寂が戻った。

心に押し隠すもの・・・。自分だけの思い。・・・誰にもぶつけられる事の決して無い。
みんなは・・・あるの?
私には・・・あるよ。

360 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 21:02 ID:FUCRwsYU
― エピローグ1 福田(2) ―

あの人は・・・どうしてあんなにも私に執着したんだろう・・・。
私は歌が歌いたかった・・・それだけなのに。

私はあの人のせいで歌を止める事を余儀なくされた。
理由はあの人が、私を好きで好きでたまらなかったからだ。
そんな理由だけでやめさせられる・・・?普通はそう思うだろう。
でもあの時期・・・シャ乱Qのメンバーの淫行事件が発覚し、その問題について事務所はすごく
過敏になっていた。
また事件を起こされては困る・・・。
今が1番大事な時・・・事務所にとっても、シャ乱Qにとっても、モーニング娘。にとっても。

私はあの人の事を好きでもなんでもなくて、ただプロデューサーと歌手の関係として尊敬はしていた。
あの人ははっきり気持ちを伝えてはこなかった。
後から和田さんに聞いた話によると『初恋』に近い感情でいい大人がどうしていいかわからなかったらしい。
私はそんなあの人の態度に気づいてはいたがわざと素知らぬ振りをした。
その態度がまた、あの人の心に火を点けていったようだ。
あの人の私への対する想いが尋常でなくなってきた時、和田さんが私に言った。
「助けてくれ、福田。お前のせいでつんくがどんどんおかしくなってきてる。
他のメンバーも薄々おかしいと思いだしてきている。
・・・あいつはマジでお前に惚れてる。お前しか目にうつっていない。
でも、まだお前は14歳。まだ14歳なんだ。
この事が世間に露見したら・・・もう終わりだ。例え何も無かったとしても、噂が広まるだけで・・・しゅうの事件
からまだ時間がちょっとしか経ってない。今このスキャンダルは痛い。
つんくもプロデューサーとしてようやく世間に認められてきた所なんだ。
娘。としてはお前を失うのはかなりの痛手になる・・・のは十分承知でお願いする。
自主的に脱退して欲しい。この通りだ」
お父さんほどの歳の違う人に土下座されて・・・私は頷くしか選択できなかった。

361 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 21:03 ID:FUCRwsYU
― エピローグ1 福田(3) ―

結局今回の事件の発端も、あの人が私に執着したからじゃん・・・。
裕ちゃんは私を恨んでないって言ってたけど当たり前じゃない。もし恨んでたらそれこそ逆恨みでしょ?
裕ちゃんが刺したっていうのはショックだったし、裕ちゃんの気持ちを思うととても居たたまれない気持ちには
なるけれど・・・。
私は悪くない。

私の夢を奪っておいて、勝手に死んでいったあの人は一体なんだったのだろう。
そしてこんな中途半端に生きている今の私って・・・。

その時タクシーのラジオから音楽が流れてきた。
聞きなれた歌・・・私の卒業ソングだった。
前奏に被せてDJがリスナーのはがきを読む。
『天国に行ってしまったつんくさんに捧げます。私はこの歌が1番好きでした・・・』
この歌を・・・あの人は泣きながら作ったと言っていたっけ。

♪ I never for get you 忘れないわあなたの事
    ずっと側にいたいけど ねぇ仕方ないよね ああ泣き出しそう ♪

涙がツーっと頬をつたった。
今までも何度か泣いたけどそれはあの人の死に対してではなかったように思う。
事件への衝撃や、かわいそうな裕ちゃんを思ってのものだった。
でも今ここで、車の窓を見つめながら涙している私は・・・あの人がもういないという悲しみで初めて泣いている。
この曲・・・大好きだった。私の為に作ってくれた心のこもった歌。
この曲を聴くたびに想い出すのだろう。
きっと・・・あの人の事を。

362 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/08(日) 21:05 ID:FUCRwsYU
今日は少なくてごめんなさい。
順番を入れ替えたりしたほうがいいかなって思ったりして・・・。
次回は一気に書けると思います。
金曜日までにはいきますのでよろしくです。

363 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/08(日) 21:16 ID:Fcj67UzI
期待下げ。

364 名前:(`.∀´) 投稿日:2001/07/08(日) 23:47 ID:ylVtZsjw
0(`.∀´)0   \(`.∀´)/
   ヤッ        スー♪

365 名前:ぽち3号 投稿日:2001/07/09(月) 02:19 ID:ZM8AtsUg
無理しないでがんばって下さい。

366 名前: 投稿日:2001/07/10(火) 11:03 ID:DHrShFuM
hozem

367 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/10(火) 17:06 ID:O.A2n7mQ
やっぱ、仲沢さんの小説たまんねーなぁ・・

368 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/11(水) 17:51 ID:A.2D.9JA
ほぜ

369 名前:娘。さんだよもん 投稿日:2001/07/12(木) 23:23 ID:3qviOYCM
保全しつつ待ちまくり

370 名前:三村 投稿日:2001/07/13(金) 21:56 ID:JTFD67zM
まだかよっ!

371 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/13(金) 23:03 ID:26.x5b6s


372 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 00:30 ID:tO6vtnWs
三村につっこまれちゃった・・・。
ごめんなさい。明日になります。
今頑張ってます。

373 名前:名無しさん 投稿日:2001/07/14(土) 00:30 ID:qn1icM0I
>>372
がんばれ〜! 待ってますよ。

374 名前:三村 投稿日:2001/07/14(土) 16:54 ID:TgLPrPL2
あしたかよっ!・・・・・おっけー。
じゃあ夜の12時以降に書き込んでくれ。今日の。
頼むよっ!

375 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:07 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ2 飯田(1) ―

「なっち、一緒に帰らない?」
事務所で解散になった後、カオリはなっちを誘った。
「うん。いい・・・けど」と珍しいな、という顔のなっち。
「何か食べて帰らない?」「それいいかも」
フフフ・・・と二人で笑う。
外はもう薄っすら暗くなりかけていた。でも夕日はビルに隠れて見えない。
「北海道だったら・・・きれいな夕日が消えていく瞬間見れただろうね・・・」
カオリは故郷、北海道の壮大な夕焼けを思い出していた。
帰っても・・・いい頃かも。そう、思いながら。

2人であるイタリアンレストランに入る。まだ時間が早いからか、お客は私達の他に1組だけだった。
グリーンのチェックのテーブルクロスがかわいいそのお店は、カオリと彼がよく利用していた。
値段がリーズナブルなわりにおいしくて、何より雰囲気がよかったので2人のお気に入りだった。
ウェイターに注文をし、大きなガラス瓶から注がれた水を飲んだ。ちょっとレモンの味がする。
一息ついた所でなっちが言った。
「ショックだったね・・・裕ちゃんが・・・」
カオリの心にまたブルーな感情が湧きあがる。
「ほんとだよね。まさか・・・だったな」
「幸せになれると思ってたのにね・・・」
伏せ目がちに言うなっちの顔は本当に悲しそうだった。
しばらくすると料理が運ばれて来る。事件はショックだったけどお腹は減っていた。
2人とも無言で目の前の料理を平らげていった。
そしてデザートのコーヒーとクレームブリュレを食べていた時カオリは意を決して問い掛けた。
「なっち・・・。なにか悩んでることない?」
いきなりの質問に「はぁ?何言ってんの?」という態度のなっち。
「どうしたの?カオリ急に」
「う・・・ん」
言うべきなのだろうか。それとも・・・。この期に及んでまだ迷っていた。

376 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:08 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ2 飯田(2) ―

「なっちは何も悩みは・・・ないなあ。今のところ。ほんとに」
「本当に?」
いつも通りの笑顔で答えるなっちの瞳をカオリはじっと見つめた。
「本当に何もないってば」
「そう。・・・うん。じゃあ、いいんだ」
やっぱり、言えない・・・。言ったってしょうがない。
でも本当の友達だったら・・・言うべき事なのか・・・。
カオリは底の方に残っている濃いコーヒーを飲み干した。ちょっと粉っぽかった。
「・・・カオリこそ、もしかして何か悩んでるの?なっちでよければ相談に」
「ううん!カオリも何もないよ!ごめんね。変な事聞いて。あーおいしかった。ごちそう様でした」

・・・言わない事に決めた。
きっと言ったらなっちはパニックになる。長年一緒にいたんだもん。想像がつく。
カオリは・・・影から応援する。それしかできないけど。
たぶん、気づいてるのカオリだけだし、他の人にバレなければそれはそれでいい事だもの。

「・・・カオリ?どうかした?」
なっちが不思議そうにカオリを見ている。
「え・・・」
「だってまた一点見つめしてんだもん。どっか行っちゃってたよ」
「アー、ごめんごめん。いや、なんかなっちと2人でご飯食べんのも久しぶりだと思っちゃってさあ。
浸っちゃったみたいだわ」
「くすくす。カオリは変わんないね!」
肩を小刻みに震わせてなっちが言った。
・・・これでいいんだ・・・。わかんないけど。今は・・・これで・・・。

なっちがコーヒーを飲み終わった所で店を出、帰ることになった。
タクシーを拾える大通りに出るまでの道で、歩きながらカオリはなっちに言った。

377 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:09 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ2 飯田(3) ―

「なっち、カオリ一度北海道に帰ろうと思うの」
「里帰り?」
「違う」
「えっ、それってじゃあ・・・」
不安そうな顔で見上げるなっち。
「うーん。カオリもう芸能界はいいやって感じなのね。それに・・・やっぱ結婚するんだったら今のうちに
親孝行しときたいしね」
笑顔で小さななっちを見下げるカオリ。
「え・・・!もしかしてカオリ、結婚するの!?ウソォー」
「っていうか・・・プロポーズされてて・・・。あっ、でも結婚するのはまだまだ先だよ。
まだ若いんだもん。でもね、とにかく芸能界は引退する事に決めたの。
でさ、カオリはなっちの事はずっと応援していきたいと思ってる。
だから、何かあったら絶対に相談してくれるって約束して欲しいの。1人で考え込まないで・・・さ」
いつのまにか手を繋いで歩いていた。・・・あの頃のように。
なっちはぎゅっと力をいれてカオリの手を握り、言った。
「うん・・・。わかった。何かあったらカオリに相談するよ。・・・でも・・・結婚かぁ。いいなあー」
「なっちは女優頑張って。カオリは花嫁修業に励むよ!」
「とうとう違う道、歩いていくんだね・・・。北海道から出てきてずっと一緒だったのに」
少しシンミリした空気が漂う。
繋いだ手をブンブン振り、カオリはわざと明るい声で言った。
「お互いがんばっていこーよ!今まではライバルだったけど、これで本当の友達になれるよ!」
「そう・・・だね」
なっちが天使の笑顔を向けてくれた。
カオリは何年かぶりにこの笑顔を素直に受け止めた・・・気がした。

なっちと別れ、タクシーに乗る。
(・・・なっちが相談してくれる日がいつか来るのだろうか・・・?)
カオリはあの日のことを思い出していた。

378 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:10 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ2 飯田(4) ―

私達は一緒に北海道から上京し、一緒の部屋で共同生活をしていた。
最初はすごく楽しかった。ルームメイトがなっちでよかったと思っていた。
でも、いくら仲がよくても仕事も一緒、家に帰っても一緒ではだんだん相手に対して疎ましさを感じる
ようになってくる。お互いにそう思っていたはずだ。
ケンカの数も増えてくる。
カオリはいろんな人に不満をぶちまけストレスを解消していた。聞いてもらうだけで気持ちが楽になった。
そんなカオリに対してなっちは他の人に何も言わなかった。どんどん、溜め込んでいくタイプだったから。
そんななっちにカオリは「いい子ぶって・・・」とまたムカツイていた。
ある日なっちの部屋を、CDを借りようと思ってノックした。・・・返事がない。
「寝ちゃった・・・?」
そーっとドアを開ける。なっちは寝ていた。お目当てのCDが机の上にあるのをみつけたので勝手に借りよう
とした。何気になっちを見る。ベッドでスヤスヤと気持ちよさそうにしていた。
その時、なっちの顔がうーんと歪んだ。
「!!」カオリは目を疑った。
その顔は・・・ひどく恐ろしい形相だった。なっちなのになっちでない、天使の微笑みの両極端にある恐ろしい
顔だった。そう、あの写真タイムのなっち・・・あの顔だ。
「・・・・・・・」恐ろしい顔でなっちは何か言っていた。怯えながらも好奇心にかられたカオリはそーっと
なっちの側に寄り、ブツブツいっている口に、耳を近づけた。

「黙れ。うるさい。指図すんな。お前達なんか死ね。みんな大嫌いだ。調子に乗るな・・・」

自分の耳を疑った。到底普段のなっちの口から出てくることの無い憎しみの篭った言葉・・・。
「ククク・・・」とその表情で笑うなっちにカオリは背筋が凍った。
あまりの恐ろしさにカオリは部屋を出ようとしたが余りに慌てていた為、机に足をぶつけた。
ガシャガシャと机の上に積んであったCDの山が音を立てて崩れていった。
「う・・・ん」
なっちが軽く寝返りをうつ。ハッとしてカオリは恐々振り向く。
かわいいなっちがかわいい寝顔でそこにいた。いつものなっちだった。
「なんだったの?今のなっちは・・・」

379 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:12 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ2 飯田(5) ―

カオリは思い悩んだ。
そう言えばケンカをしても、心をぶつけ合うという事はしていなかった。
なっちは心に黒いものを溜め込んでいる・・・。それがあの顔なんだ・・・。
吐き出しちゃえばいいのにと思い、その後なっちにそれとなく本音を言わそうと振ってみたりするのだけど
いつも上っ面な答えしか返ってこないのだった。

あの時からずっとカオリはなっちを注意して見ていた。
前からカオリは人をじっと見る癖があったので、変には思われなかったようだ。
あの顔が・・・寝ている時以外に出て来るようになったのは・・・「ふるさと」の後ぐらいだった。
なっちはあの時、「ふるさと」の責任を1人で負った。
実際にはなっちの責任じゃないしみんなもなっちのせいだとはこれっぽっちも思っていない。
だって、あれはなっちだけの曲じゃないし・・・。
でもなっちの中ではたぶん「安倍なつみwithモーニング娘。」だったのだろう。
その上、「ふるさと」の傷が癒える間もなく「ラブマシーン」の超大ヒット。
「なっちは落ち目」「後藤人気No1」などとマスコミに言われなっちは激しく傷ついたはず・・・。
でもなっちは天使の微笑みでがんばった。痛々しいほどがんばっていた。
・・・時折フッと見せるあの顔はなっちの心の悲鳴だったのだろうか。

結婚式であの顔を見たときはびっくりした。ああ、なっちは心から祝福していないんだ・・・そう思った。
つんくさんが刺されたと聞いた時、ほんのちょっと「まさか・・・なっちが?」と疑ってしまったほどだ。
今、カオリにできることはなっちの相談に乗ってあげる事だけ・・・。
なっちの心の負担を軽くしてあげれたら、どんなにいいだろうか・・・。

タクシーが止まった。
カオリは愛する彼が待つ家に返る。カオリは彼が大好きだ。彼もカオリを愛してる。
カオリだけ・・・だよね?幸せになれるよね。
玄関のドアを開けた。
「ただいまー」

380 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:13 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ3 安倍(1) ―

カオリに誘われて、久しぶりに2人で食事をした。
店に入った時はガラガラだったのに、帰る頃にはもう空席がなく、レジの前には若い女の子達やカップルが
10人ほど並んでいた。私達はコソコソと会計を済ませ、顔を隠すように店を出た。
外はもうとっくに日が暮れていた。
「この店、おいしかったよ。いい店知ってんねカオリ」
「でしょー。また来ようね。他のメンバーも一緒に・・・さ」
「うん・・・みんなで来たいね」
カオリは「そうだね」と言ってにっこりと私に微笑んだ。
その笑顔はまるで初めてオーデションで会った時を思い出されるような・・・カオリの笑顔。
「また連絡するね」
「絶対!絶対だよなっち!何でもいいからカオリに相談してよね!」
カオリは何度も念を押した。
そして私達はお互いにタクシーを拾い、それぞれの家路へと向かったのだった。

20分程でマンションに着き、私はベッドに横たわった。
・・・悩みか。
言えるくらいなら・・・。
『悪いなっちは存在しないもんね。くすくす・・・』
悪いなっちがまたヒョコっと心の隙間から顔を出した。
『でさ、あんた結局裕ちゃんには言えなかったんだべさ。意気地が無い奴』
「うるさいよ!・・・今となっては裕ちゃん言わなくて正解だったと思ってるよ・・・。福ちゃんの事だけで裕ちゃんは
つんくさんを刺したんだよ。もし、今回なっちが言った事で刺してたらと思うと・・・ゾッとするよ」

381 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:14 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ3 安倍(2) ―

あれは・・・つんくさんが裕ちゃんとの結婚報告を事務所にしに来た時の事・・・。
まことさんがいつに無く真剣な表情でつんくさんを呼び出したのをたまたま見かけた。
私は2人の後をつけた。何故だかわからないけどつけた。
階段の踊り場でヒソヒソ話していたので、私は見つからないように姿勢を低くして話が聞こえる場所に移動した。

「・・・ええんか?中澤でお前ほんまええんか?」
「だから、ええから結婚すんねん。まこっちゃん、さっきから何でそんなに怒っとんねん?」
「わかってるやろ!俺の気持ち!」
「シー!まこっちゃん声大きいて。」
「お前・・・俺の事、どないするつもりや」
「・・・もしかしてまこっちゃん、その事心配しとるんか?」
「・・・そうや」
「あんなあ、まこっちゃん・・・。お前も嫁おるやないか。でも俺なんか文句言うたか?」
「だから、俺のは完全なカムフラージュやんけ。うちは親がうるさかったし・・・まあ、美樹の事嫌いや無いで。
でも俺はお前の方が好きやねん!わかっとるやろ?」
「だから、家庭をお互い持っても今まで通り会っとけばええやん。俺は男の中ではまこっちゃんが一番好きや。
それでええんちゃうんか?」
「・・・ええけど・・・ええねんけど・・・」
「な。まこっちゃんとは今まで通り。約束する。それに仲人頼んだんも、まこっちゃんの事思てや」
「俺を思って・・・?」
「そうや。(ボソボソ)みたいに思えるやろ」
「つんく・・・!やっぱりお前は俺の事・・・!」
「当たり前やないか。あ!それよりまこっちゃん、今の気持ちをまた詩に書いたらええんちゃうか?
俺の為に書いた「こんなにあなたを愛しているのに」みたいなせつないやつ」
「お!それええかも・・・。あの歌でつんくに俺の気持ちわかってもらえたしな」

つんくさんとまことさんは・・・デキてるってこと!?うそ!
私は人の秘密を知り、なんだかワクワクした気持ちで家に帰り、さっき言ってた
「こんなにあなたを愛しているのに」の歌詞カードを見た。

382 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:15 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ3 安倍(3) ―

「・・・プッ!これまことさんがつんくさんの事想いながら書いたの?そう思ったらめちゃ笑えるー!」
その歌は相手に想いを伝えたいのに、伝えられないという歌詞で、なっちは不倫とかそういう系の歌だと
思っていた。(実際、不倫ドラマの挿入歌だったらしいし)
「♪こんなにあなたを愛しているのに あなたに伝える手段がない♪か。で、詩が伝える手段だったんだ」
私はケラケラと1人笑いこけた。

裕ちゃんとつんくさんの結婚には何も異議はなかった。
良かったねって感じだった。
なのに・・・どうしてだろう。結婚をぶち壊してやりたい衝動に駆られたのは。
モーニング娘。のマザーシップと言われた私を差し置いてプロデューサーと他のメンバーが結婚するから?
『それだべ!』
悪いなっちは前よりも頻繁にでてくるようになっていた。
『なっちがなんでも一番だべ!そんな結婚壊しちゃえ!!』
「できないよ・・・。そんな事」
『なっちが恋をした時みんなにすごく叩かれたのに、こっちは祝福されてるんだよ。
そんなのズルイべ!』
「・・・確かにズルイ。なっちなんかマスコミやファンにどれだけ言われたか!」
『言っちゃえ言っちゃえ!だってつんくはまことと別れる気ないんだべ?
それを聞いたらいくら裕ちゃんでも怒って婚約破棄するっしょ』
「・・・だね」

でも結局言う事はなく、式の日になってしまった。
しかも幸せそうな裕ちゃんを見たら、さすがに言えなかった。
結局・・・まことさんに言ったんだけど。

383 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:16 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ3 安倍(4) ―

高砂に座るつんくさんの横にはニコニコうれしそうに終始笑顔のまことさん・・・。
2人の会話を立ち聞きした時、1箇所聞こえない所があったけど、あれはたぶんこうゆうことだろう
と思い、まことさんに耳元で呟いた。

「まことさんとつんくさんの結婚式みたいですね」

図星だったのだろう。今までの笑顔はどこかへ吹き飛び、顔をピキッとひきつらせるまことさん。
わかりやすい人・・・。
写真に取られたのはこの時だったのだろう。
・・・でも私、あんな顔してたの・・・?すごく変な顔だったな。何の他意もなく言ったようにしたつもりなのに、
あんな顔で言われたら、脅しみたいに聞こえたかもしれない。
『あれは悪いなっちだべ』
「え・・・」
『だから、あれは悪いなっちの顔だべ。表に出れるようになったんだべ!』
「う・・・そ」
『まことをビビらせるように出て行ってやったべ。ぎゃはは。
もうすぐ天使のなっちはいなくなるかもしれないよ。ぎゃはははは!!』
あざ笑う悪いなっち。私は思わずベッドから起き上がった。
「そんな・・・」
1人しかいない部屋に、私のヒステリックな声が響く。
『あんたが作ったんだべ。嫉妬や悪意、そして僻み根性を誰にも知られたくないあんたが悪いなっちを
作ったんだよ。あんたは自分しか愛せない奴だべ。他人とは常に一線引いて付き合ってたべ。
そんなあんたは自分すら否定するのか?悪いなっちもなっちだべ!』
「やめてっ!!」
悪いなっちが1人歩きし出した・・・。そんな・・・。どうしよう。
その時・・・パッと見た鏡には・・・なっちだけどなっちじゃない顔が映っていた。
あの写真の顔・・・?
いやだ!怖い!私は多重人格なの?病気なの!?誰か助けて!!!
『誰も助けてはくれないよ。今まで助けてきたのは悪いなっちだべ』
「うるさいよ!!」
ああ、どうしよう。お母さんに・・・言っても帰って来いって言われるだけだ。
室蘭に帰るなんて・・・まだ東京でやり残した事があるもの・・・早すぎる。
・・・カオリ?そうだ!カオリに相談を・・・。

384 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:17 ID:I8MBoZ5.
― エピローグ3 安倍(5) ―

そういえば「悩みがあったら言え」ってあんなにしつこく言ってたけど・・・。
悪いなっちの写真を見つけたのもカオリで・・・。まさかカオリは気づいてたのだろうか?
悪いなっちの存在に・・・。
とにかく、電話しよう。カオリになっちの悩み全てぶちまけて聞いてもらおう。
私は受話器に手を伸ばした。
カオリは家に帰っていた。そして親身に私の悩みを聞いてくれた。
4時間も話していたのに、カオリは全然嫌がらずに聞いてくれた。
それに悩みを打ち明けると、カオリは嬉しそうだった。やっと本当の友達になれたね、と言ってくれた・・・。
もっと・・・もっと早くこうしていろんな事話してたなら、悪いなっちはとっくにいなくなっていた筈なのに。
友達って・・・大事だよ。すごく身に染みたよ。
ありがとう、カオリ。カオリのアドバイス通り、私1度病院行ってみるよ!
私は受話器を置いた。なんか心が軽くなった気分だった。
そして悪いなっちの「チッ!」という舌打ちが遠くから聞こえたような気がした。
「あ・・・」
電話機の緑のランプがチカチカしているのに気づく。・・・留守電だ。誰だろう?
私は再生ボタンを押した。
「ピーッ。イッケン デス。」


「――まことです。お前・・・もし俺等の事、人に言うたら・・・殺すから」

385 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/14(土) 21:18 ID:I8MBoZ5.
今日はここまでです。
なっちのとこはサイコ風(?)に終わらせてみました。
1人1人結構長くなってしまいそうです。
2人か3人ずつ書くつもりなので、あと最低三回で終了ですね。
長くなってしまって本当に申し訳ありません。省くところがわかんなくって・・・。
っていうかこれでも省いてるんですけど・・・。(鬱
ではまた来週に。なるべく早くしまっす!

386 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/15(日) 00:04 ID:qmZ2B7jk
俺、この小説の中でなっちのキャラ設定が一番好きだったのよ。

この小説ももう終わるのかぁ・・・

387 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/15(日) 01:03 ID:C8r0.ZTU
謎解き後のほうが面白いよ、マジで。
でも痛いくらいに切ない話だな。
下品ではないが本人たちには読んで欲しくないね(w

388 名前:三村 投稿日:2001/07/15(日) 09:27 ID:mKfK.OkE
おもしれーよっ!
また来週まってるよっ!

389 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2001/07/15(日) 11:46 ID:eXHdyqNk
市井の独白がどうなるのか楽しみだ

390 名前:manbo 投稿日:2001/07/15(日) 17:27 ID:NrcdKdh.
私も楽しみにまっています

391 名前:eAc1Aag240.tky.mesh.ad.jp 投稿日:2001/07/15(日) 23:33 ID:0V7jKD2I
s

392 名前:あ名無し娘。 投稿日:2001/07/15(日) 23:38 ID:p417kjJ6
つ、続くとはおもわんかった・・・

393 名前:娘。さんだよもん 投稿日:2001/07/16(月) 00:21 ID:cd24WTDg
すごく面白いっす
全キャラの後日談期待してます
がんばって下さい

394 名前:どっちの名無しさん?  投稿日:2001/07/16(月) 02:36 ID:oZ1JWElE
キャラ設定とは分かっていながらも、なんかリアルで楽しめます。
仲沢さん文章上手だね。

395 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/17(火) 22:43 ID:TGy6pqWc
保全させていただきます。
Good Job!

396 名前:悠子さん 投稿日:2001/07/18(水) 05:49 ID:tl0HlafA
楽しみで毎日見てる。
頑張って最後まで書いてくださいね

397 名前:ナナシ娘。 投稿日:2001/07/19(木) 03:39 ID:ZrkzH/dg
保全

398 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/19(木) 07:07 ID:I/90BsxI
楽しみに待っています

399 名前:名無しっ娘。 投稿日:2001/07/20(金) 10:00 ID:iho3.yBg
npa

400 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/21(土) 18:32 ID:hzB2JyWc
400ゲット!
というわけで、明日(日曜)いきます。

401 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/21(土) 19:22 ID:XE8t7JyI
ふうやっと更新か。
今これしか読んでいないから頑張ってね。

402 名前:((((( 投稿日:2001/07/22(日) 23:07 ID:x8FDKwSo
まだ?

403 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/22(日) 23:53 ID:HfAxVy0.
― エピローグ4 石黒(1) ―

事務所からの帰り道、私は1人で考え事をしたくなった。
たまたまそこにあったオープンカフェに立ち寄ることにし、店に入った。
「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」
席は目立たない奥の場所を指定し、ロイヤルミルクティーを注文した。
裕ちゃん・・・。
私は裕ちゃんの事を考えながら運ばれたポットの紅茶をカップに注いだ。
裕ちゃんは男っぽいところもあったけど・・・ペアのティーセットとかにこだわったりして、かわいかった。
「うちは人生の酸いも甘いも知ってるんやで」そう言いながら、結婚にとっても夢見ていた裕ちゃん。
夢をこんな形で失うなんてあの頃は思ってもみなかっただろうな・・・。
でも・・・まさか、愛する人を嫉妬で刺すなんて私には考えられない。
私だったらどうする?
もしお腹に子供がいなくて、結婚するのに彼が昔の女の影を引きずっていたら・・・?
「ちょっとだけ結婚生活を我慢してすぐ離婚して慰謝料がっぽりいたたく」かな?
ビックリするほどの現実主義的な答えが浮かんだ事に、私は少しおかしくなって噴出しそうになった。
でも結婚するってこうゆうことだし。
『愛』だけじゃ何も生まれない。『夢』だけでは生活できない。
裕ちゃんはつんくさんを愛しすぎたあまりにああいう事件を起こしてしまった訳だけど、たぶん結婚
していても遅かれ早かれ、ダメになっていたんじゃないだろうか?
つんくさんが明日香の事を特別に気に入っていたのは初代メンバーなら皆気づいていた。
明日香が娘。を辞めたのもそれが原因かもしれない・・・とメンバー内でも噂になっていた。
その事は裕ちゃんも知っていたはず。
「勉強がしたいから」と公言してはばからない明日香に、誰も真意を問いただす事はできなかった。
やっぱり、明日香が辞めたのはつんくさんのせいなの・・・?
ただ、今もその想いをつんくさんが引きずっていたなんて思いもよらなかった。
裕ちゃんもかなり驚いただろう。
なぜなら・・・幸せそうだったのに。
そう、あの日の2人はとても。

404 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/22(日) 23:54 ID:HfAxVy0.
― エピローグ4 石黒(2) ―

その日、旦那から昼間に電話が掛かってきた。
『今日の夜、お客さん連れて帰るから。カップルね。お祝いだから何か豪華な食事頼むわ』
カップルって誰なの?と聞いても「それは帰ってからのお楽しみ」と言って教えてくれない。
お祝いでカップルって事は結婚祝いなのかしら?
私は慌ててリビングを掃除し、車で買い物に出かける。
食材を買い、飾る花を後で届けてもらうように注文し、急いで家に戻った。
料理にとりかかりながら「誰が来るのかなあ?」と少しワクワクしていた。
夜8時ごろ、ピンポーンとベルが鳴る。
「連れて来たよーん」と旦那の後に立っている男性。
「夜分すんませんな」
「わぁ、つんくさん!ご無沙汰してます!・・・え?」
つんくさんの後ろにはほっそりした女性がヘヘヘという顔で立っていた。
「ゆ、裕ちゃん!?まさか・・・カップルって・・・」
驚きのあまりその場で腰を抜かしそうになってしまった。
「こいつら結婚するんだって!彩も驚きだろ?俺もマジでビックリしたよ」
つんくさんと裕ちゃんが・・・結婚?本当に!?
「黙っててごめんな。あやっぺ」
「えええ!付き合ってたの?知らなかったあ。結婚・・・するんだあ。うわあ」
「ま、そうゆう事になりましてん」
「おめでとー!とにかく、上がってよ。早く乾杯しよ!」

その日は朝まで4人で飲み明かした。
幸せそうな2人。裕ちゃんも今までで1番輝いてた。つんくさんもうれしそうだった。
偽りには・・・見えなかった。
だから私はあんな馬鹿なことをしてしまったというのに。
いつからこう、つまらない心の狭い人間になってしまったのだろうか。
私は幸せを手に入れたはず。なのに・・・なのに・・・。

405 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/22(日) 23:55 ID:HfAxVy0.
― エピローグ4 石黒(3) ―

大好きな歌を歌って、芝居にも挑戦して、バラエティーでも活躍して・・・。
娘。脱退後、裕ちゃんの仕事振りはとても凄かった。
人生を謳歌するってこうゆう事なのかもしれないと、ブラウン管の向こうにいる裕ちゃんを見ながら
思った。

私は自分に言い聞かせる。
自分自信で決めて、違う夢に向かって発進したんだから妬んではいけないよ、と。
あなたには優しい旦那もいるじゃない。かわいい子供がいるじゃない。暖かい家庭があるじゃない。
・・・そうよね。欲張ってはいけない。何もかも手に入らないから人生楽しいんだよね。
アイドルの地位を蹴って奥さんとお母さんになった。
でも、私のもう1つの夢、デザイナーにはなれなかった。
娘。の服をデザインしたかった。できると思っていた。・・・でも現実は甘くはない。
事務所に今の旦那との熱愛がバレて仕事と恋愛どっちをとるか決断を迫られた時、もう娘。でやり残した事
はなかったから恋愛を選択した。娘では完全燃焼したから。
そして私はもう1つの夢、デザイナーにも賭けてみたかった。
強く願えばそれは現実に叶うと思ったから。娘。のように。
子育てで忙しく、毎日が過ぎていく。私はもがき苦しむ。
テレビを見ると昔の仲間がスポットライトを浴び、たくさんの人から愛されている・・・。
一度経験したあの快感はそう簡単に忘れる事が出来ない。
今まで何人の歌手や女優が結婚し引退したのに、また芸能界へ舞い戻って来たのだろう。
でも私は多くを求めない。
いろんな事を同時に両立させるほど、器用じゃないから。
今はいい妻いい母として頑張っていくしかないのだから・・・。
そんな私の思いをぐしゃぐしゃに踏み潰されたような気がした。
裕ちゃんのとても幸せそうな顔がとても憎らしく見えた。
だって、歌手で女優で世間からも祝福されて世界一の幸せな花嫁になって子供を産んで家庭を作って・・・。

406 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/22(日) 23:56 ID:HfAxVy0.
― エピローグ4 石黒(4) ―

ただ裕ちゃんが羨ましかった。
何もかも手に入れていく裕ちゃんが・・・。
裕ちゃんは私よりも多くの物を掴んでいく。妬ましい。
わかってる!私が選んだ道なのに妬むなんておかしい事ぐらい!
小さな悪戯してもいいよね?ちょっとぐらい不快な思いさせてもいいよね・・・?

刑事さんには事情聴取の時、正直に言った。
「私はつい、出来心で嫌がらせの祝電を送りました」

『兜森』という名を使って、弔電みたいな文の祝電を送ったのは私。
まさか、読まれるとは思っていなかったけど。
ホテルでは電報をチェックし、ああゆう電報があると絶対に渡さないらしいけど、今回は電報の数も
半端じゃなかったようなので、間違いで混じってしまったのだろう。
本当はつんくさんの自宅に送るつもりだった。それなら必ず目を通すだろうから。
でも直前になってホテルに送ったのは何だか少し怖くなってしまったから。
嫌な女・・・。
私ってもっとサバサバしてたはずなのに。やる事もちっこくて笑っちゃうわ。
「はぁ」
深い深い溜息をついた。
裕ちゃん、ごめんね。素直に祝福してあげられなくて。
平凡で刺激の無い毎日が嫌だった。それを人のせいにしてた。
でもそんな平凡が幸せだった事に気づいたよ・・・。
早く家族の待つ家に帰ろう。温かい家に。

私は新しい夢を考えながら家路を急いだ。
かっこいいお母さん、かっこいい奥さん。
こう呼ばれたいのが今の私の、夢。

407 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/22(日) 23:58 ID:HfAxVy0.
次書いたのですが、気に入らないので書き直して明日にします。ごめんなさい。
しばし、お待ちを・・・。

408 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/23(月) 00:29 ID:1Q/pOqNU
仲沢さん、お疲れ様です。マジファソには辛いけど、娘。のダークサイドを
うまく描いていると思います。

409 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/23(月) 00:45 ID:.I4WAg8E
今日の「堂本兄弟」中澤がゲストだったんだけど、
ここの内容(特に安倍エピローグ)思い出して
素直に見られなかった(笑)

410 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/23(月) 01:38 ID:ijReD7/s
前々から思ってたけど仲沢さん、ヲタ歴長いねぇ・・・って、仲沢悠子を名乗ってるから当然か(藁
ほんといい小説だよ・・・


堂本兄弟のゲストだったってマジ?!・・・誰か事務所に言ってくれよ。鬱だ

411 名前:名無娘。 投稿日:2001/07/23(月) 03:54 ID:.tMGoI3A
最初から一気に読んだら時間かかったぁ
でもおもしろ。

412 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/23(月) 04:04 ID:6.QIIxbg
祝電への伏線って>>24だけ?

413 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 22:52 ID:0HqJ4ZOY
― エピローグ5 保田(1) ―

刑事さんの話が終わった後、私はダメ元で、サヤカに「久々に家に来ない?」と誘った。
「別に、いいけど」
と、そっけない態度だったが、サヤカは同意してくれた。
ごっちんも誘おうかと思ったけど、社長に呼び出されていたので私は先に出て行ったサヤカの後を
追ったのだった。

正直、今日事務所にサヤカが現れた時はびっくりした。
一応メールでその旨を伝えたのは私だけど、サヤカはもう私たちの前に顔を出さないんじゃないか、と
思っていたからだ。
「サヤカ・・・。今日は来てくれてありがとね。来づらいかなぁと思ったんだけど・・・。
この間の事もあったしさ」
「別に、圭ちゃんにお礼言われる筋合いは無いよ。アタシはこの事件にちょっと興味があっただけ」
クールな表情で淡々と話すサヤカ。
でもそんなサヤカもさすがに、さっき事件の全貌を知った時悲しみを押し殺している表情をしていたのを
私は見逃さなかった。
タクシーを拾い、私のマンションに向かう。
そこに到着するまでの間、他愛の無い会話でお茶を濁した。
本当はサヤカにいろいろ聞きたかった。
今までどういう生活をしてきたのか。そしてこれからどうするのかを。
でもこの間、ホテルからサヤカに出て行って貰おうとした時、私が言った言葉。

「全てを知る事になんの意味があんの?知らない方がいいことが、世の中にはたくさんあるんだよ」

そう言ってしまった手前、私がいろいろ詮索するのはまた、サヤカを怒らせることになりそうなので
言葉を飲み込んだ。

414 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 22:55 ID:g6jU5LVs
― エピローグ5 保田(2) ―

「さあ、上がってよ。ちょっと散らかってるけど」
足の重いサヤカの背中を押し、部屋に招き入れた。
そしてテーブルとベッドの間まで連れて行った。
サヤカはベットにもたれかかるようにして、ラグマットの上に腰を下ろした。
「お茶でいーい?」
私が狭いながらもキッチンと呼ばれる場所から声をかける。
「っていいながら、お茶しかなかったりして」
とお盆にグラス2つとベットボトルを乗せ、部屋の真ん中にある小さなテーブルに持っていった。
サヤカの対面に座りコポコポとグラスにお茶を入れる。
たまにボゴッという音を立て、ペットボトルから茶色い雫がテーブルに飛んだ。
「はいどうぞ」
お茶の入ったグラスをサヤカの前に置くと彼女は「ありがと」と小さくお礼を言った。
私は自分の分を注ぎながら、サヤカに話し掛けた。
「あのね、サヤカ。私決めた事があるの。・・・聞いてくれる?」
「・・・何?」
サヤカは興味無さ気に爪をバチンパチンと弾いていた。私は構わず話を続けた。
「人間っていつかは死ぬんだよね・・・。病気とか事故とかで明日死んじゃうかもしれない。
つんくさんが死んで・・・それを強く感じた。
で、決めたの。私はマネージャーなんかやらない!
音楽に携わる仕事を・・・それが裏方で日の目を見なくても・・・やりたいの!
・・・だからやめるわ。事務所」
サヤカは私の最後の言葉にピクッと肩をかすかに反応させ、チラと顔を上げ私を覗き込むように見ながら、
「・・・やめたって何もないよ」
とポツッと言い1度止めた爪を弾く仕草をまた始めた。
「そうかもしれない。でも音楽に携われるなら芸能界でなくってもいいじゃない?
お母さんのカラオケ教室継いでもいいって思ってる。・・・私、歌ってるだけで幸せなんだ」
サヤカは返事をしてくれず、ただつまらなそうに床を見つめていた。そして、言った。
「圭ちゃんは・・・そんな夢みたいな事まだ言ってんの?」

415 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 22:56 ID:g6jU5LVs
― エピローグ5 保田(3) ―

「え・・・」
「そんな甘いもんじゃないよ。世の中は。私だって・・・」
サヤカはいきなりその場に立ち上がった。
今にも私に掴みかかろうかという雰囲気だったので、思わず私は肩をすくめた。
「アタシ、後悔してるんだよ!自分1人じゃ何も出来ないんだよ!ちょっと有名になったくらいじゃ何も
出来ないんだよ!!」
サヤカの拳は強く握られ、プルプルと震えていた。
全身からすごいエネルギーを放出させ、そのエネルギーは怒りから来るものだと見て取れた。
私は怯えた目でサヤカを見ていた。
「1度栄光を掴んだ者が、そんな誰にも聴いてもらえないのに、歌ってるだけで幸せだ、なんて・・・。
圭ちゃん後できっと後悔する!アタシは断言できるよ」
サヤカの瞳が薄っすらと濡れているように見える。
フーっとサヤカは自分を抑えるかのごとく息を整えた。そして落ち着いた口調で言った。
「・・・マネージャー断るのは賛成。でも事務所やめちゃダメだよ。
音楽に携わる仕事なら、事務所のミュージックスクールの講師とかさせて貰いなよ。
チャンスがまた巡ってくるかもしれないし。
とにかく、事務所やめていいことなんか1つも無いよ。時期を急いでいい事なんか1つもないよ」
「・・・サヤカ・・・」
私はサヤカを見上げた。そこには私を心配してくれる友人の顔があった。
あの頃のサヤカの顔が。
私は思い切って聞いてみる事にした。
「・・・ねえ、サヤカ。一体これまでに何があったの?サヤカはなんでそんな風に・・・」
「アタシ帰るわ・・・」
自分のバッグを鷲掴みにし、玄関の方へ足早に去ろうとするサヤカ。
そんなサヤカを私は追いかけ、引き止める。

416 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 23:01 ID:I9utZSkg
― エピローグ5 保田(4) ―

「ちょっと待ってよ。ねえサヤカ」
私はサヤカの左手を引っ張っていたが、既にサヤカの右手は玄関のドアノブを持ちドアを半分
引き寄せ、向こうには共有廊下が見えていた。
「離して!」と抵抗するサヤカに
「だって・・・」
と必死で腕を掴んで離さない私。
すると急に抵抗をやめたサヤカが私を見据えた。そして
「圭ちゃん。この間言ったでしょ?全てを知る事になんの意味があんの?
知らない方がいいことが、世の中にはたくさんあるんだよって。だから・・・アタシは言わない」
と言った。私は1つの言葉も出ない。
「1人になりたんだ。ごめん、帰らせて」
私は気持ちとはうらはらにサヤカの細い腕を離すしかなかった。
「アタシさぁ・・・」
背中越しにサヤカはこう言った。
「もう、昔の私じゃないし、昔の私には戻れないけど圭ちゃんの事は応援しつづけていく・・・から。
圭ちゃんが私の夢叶えてくれたらいいのにって思ってるから・・・」
サヤカは1度も振り向かずに、部屋を出て行った。ばたんとドアが閉まり部屋には静寂が戻った。

玄関に残された私はそこにしゃがみこんだ。
私の目からは大粒の涙がボロボロと流れ落ちた。
何故だろう。もうこのままサヤカと会えないのでは?という予感が頭をよぎった。哀しい予感だった。
なのに黙ってサヤカを見送るしかなかった。「追いかけて来ないで」とサヤカの背中が、私を拒絶していたから。
「サヤカ・・・」
私の仲間。
歌について熱く語り合った仲間。
辛い時を一緒に乗り越えた仲間。
この時モーニング娘。は解散していたけれど、私の中で今、本当にモーニング娘。が終わった気がした。

417 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 23:02 ID:I9utZSkg
― エピローグ5 保田(5) ―

1人になった部屋で、私は考えていた。
あの写真・・・。結婚式の写真を変な風に撮ったのはわざとだった。
裕ちゃんだけが幸せになるなんて・・・許せなかった。精一杯の嫌がらせだった。
・・・ごめんね。裕ちゃん。私、心に余裕がなかったんだ。裕ちゃんの事大好きなのに。

あの時の私は妬みが服を着て歩いているようなものだった。
「圭ちゃんは仕切るの上手だし、マネージャーに向いている」とつんくさんに言ったのは裕ちゃんだった。
それをつんくさんが社長に言い、私は和田さんの所に修行に行くように、と告げられたのだ。
もしかすると・・・裕ちゃんなりの優しさだったのかもしれない。
娘。解散後、行き場の無い私を心配し、芸能界に残っていられるように・・・。
でもそれはただの有難迷惑だった。
私には芸能界に未練は無い。ただ歌に携わっていたいだけ・・・。
だからってあんなつまんない事してしまうなんて。私は今猛烈に後悔してる・・・!

ずっと私の胸にサヤカの言葉がずっとリフレインしている。
聴いて貰えない歌を歌う事がはたして幸せなのか・・・?
事務所に残ってチャンスを待ったほうがいいのか・・・?
私にサヤカの夢を叶える事ができるのだろうか。
「世の中は甘くない・・・か」
きっとサヤカは事務所を辞めて、理不尽な思いをたくさんしたのだろう。それを私に教えてくれたんだ。
同じ失敗はして欲しくないって。だから・・・時期をみよう。きっとチャンスが来るはずだもの。
サヤカ、そして裕ちゃん。私がんばるよ。絶対がんばるから!!

カタカタ・・・私はPCを立ち上げ、毎日の日課、メールのチェックをする。
「あっ、和田さんからだ」

件名:デビュー
演歌歌手としてデビューの話が持ち上がりました。
明日事務所にP.M3:00来て下さい。   和田

418 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/23(月) 23:03 ID:I9utZSkg
今日はこれで終わりです。次は後藤ともう1人誰かです。
早く書き上げたいです。

>>412
伏線少なかったですね。言われて気づいた・・・。
祝電送った事に関しては、>>48でちょっと触れてたりするのですが・・・。

419 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/24(火) 00:16 ID:rynsxgM2
お疲れ様です。
盗聴女?が誰かわかって無いのは俺だけか?

420 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/24(火) 03:09 ID:LNyAxa82
>>419
多分。さすがに、それは途中で分かったぞ。

421 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/24(火) 03:47 ID:J2h44zI2
>>420
わからん・・・鬱だ

422 名前:娘。さんだよもん 投稿日:2001/07/24(火) 06:40 ID:fuoJovP6
>>419
あの時点で登場してないメンバーは誰?

>仲沢さん
いつもすごく面白いです。
後日談はメンバーへの思いを拾い上げていってるみたいで読んでて嬉しいです。
続き待ってます。

423 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/26(木) 01:46 ID:4rCBR5lc
保全

424 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/27(金) 00:16 ID:6TgjIOzc
保全

425 名前:ぼかあねえ 投稿日:2001/07/27(金) 00:18 ID:n/Vu4WNc
>>424
ヲイヲイ

426 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/27(金) 21:22 ID:6aTpLNd6
(`.∀´)<マネージャーなんかで終わらないわよ!!!

427 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/28(土) 00:47 ID:e8ykizXw
土か日に書きます。

428 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/28(土) 02:29 ID:aPAlNI7E
たのしみ、たのひみ。

429 名前:ナナシ娘。 投稿日:2001/07/29(日) 04:04 ID:LfRQdbuY
保全

430 名前:三村 投稿日:2001/07/29(日) 19:27 ID:ueNkn8ec
まだかよっ!

431 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/29(日) 22:12 ID:fc7cJfVQ
おーい!

432 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/29(日) 23:25 ID:bEjz.h/.
更新夜中になります。
お待ちください・・・。

433 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/29(日) 23:50 ID:TK/ImMmA
>>432
はーいっ。
がんばって。

434 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:52 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(1) ―

せっかく市井ちゃんと話したかったのに、社長に呼び出されたから一緒に帰れなかった。
久しぶりに会ったあの日、市井ちゃんはみんなから冷たい目で見られていた。
後で圭ちゃんに何があったのか聞いても何も教えてくれなかった。
圭ちゃんが市井ちゃんと連絡取り合ってるなんて知らなかったし、その事はやぐっつぁんもショックを
受けてる感じだった。もちろん私もショックだったけど。
ちょっと近寄りがたい雰囲気になっていた市井ちゃんだったけど、私には大好きな市井ちゃんだった。
あーあ。話したかったな・・・。
マネージャーに送ってもらう車の中で、私はずっと市井ちゃんの事を考えていた。

「明日は15時に迎えに来るから」
マネージャーはそう言って、帰っていった。
「ただいまー」
玄関に入ると、ユウキがどこかに出かけようとしていた。
「あ、姉ちゃん。おかえり」
「ユウキ・・・?どっか行くの・・・?」
「・・・姉ちゃん、事務所行ってきたんだ。みんな来てた?」
「うん・・・。」
「俺、ちょっと出かけて来るから」
「あっ、ちょっと待・・・」
私の言葉を無視し、どこに行くのかを教えてくれないまま、深くキャップをかぶったユウキは行ってしまった。
ずっと落ち込んでたユウキだったけど・・・遊びに行く元気がでてきたのかな?
裕ちゃんからのみんなに一言宛てた手紙の事、話そうと思ってたのに・・・。
ま、あとでいいか。
私は自分の部屋に行き、楽な服装に着替えた。
脱いだジーンズがアコーディオンのようになっている。面倒くさいのでそのままにしておくのは毎度の事。
おもむろに私は勉強机の1番上の引出しをあけた。
そしてグリーンのかわいい封筒を取り出した。

435 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:53 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(2) ―

表には女の子らしい文字で『後藤真希様☆』と書かれていた。
裏には『真希ちゃんファンより』とある。
中の便箋を出す。それは薄っぺらい一枚の紙。
今から4ヶ月程前に送られてきたもの。
「一体誰からだったんだろう・・・」
切手の貼られていないその手紙は家に直接投函されたものらしい。
最近は減ってはいたけど、悪戯が多いのでいちいち読んだりしないようにしていた。
小包は絶対開けない。(何が入ってるかわかんないし事務所からもきつく言われた)
写真が入ってそうな手紙も開けない。(やらしい写真が入ってた事があったから)
でもあまりに薄っぺらいその手紙は私の心を惹いた。差出人が書いていない事は気になったけど。
剃刀なども入ってない感触だったから、私はその手紙の封を切った。
そこにはかわいい文字が綴られている。文面を読みながら私の顔色が変わっていくのが自分でもわかった。
「・・・うそでしょ・・・?」

『真希ちゃんの弟のユウキ君は中澤さんとつきあってるよ。
でも中澤さん、つんくと結婚するんだよね。ってことは中澤さん二股だね。
ひどい事する人は嫌いだし、真希ちゃんの弟が悲しい思いをしているので
手紙に書きました。
信じて貰えないかもしれないけど本当です!1度確かめてみては?
                              真希ちゃんファンより

P.S モーニング娘。解散は残念だけど、真希ちゃんのこと応援し続けるよ☆』

変な手紙だと思った。やっぱり悪戯かよって思った。
ユウキと裕ちゃんなんてまさか・・・。だって裕ちゃんはつんくさんと結婚するんだよ!?
歳もそーとー離れてるしありえないよ・・・。
とは思ってはみたものの、ふと気にかかる事があったのを思い出した。
最近元気の無いユウキ。裕ちゃんの結婚式に絶対行かないと言い張るユウキ・・・。
まさか・・・?

436 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:54 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(3) ―

裕ちゃんとユウキが付き合ってるなんて絶対信じられなかったけど、なんとなく気になった私は
できるかぎりユウキの行動に気をかけていた。
手紙の差出人が誰だかわからないのに信じるなんてどうかしてたかもしれない。
ただ、ユウキの落ち込み様は今まで一緒に育ってきた中で見たことも無い姿だったから、
もしかして・・・と思わざるを得なかった。
ユウキに直接聞いてみるしかないのかな・・・。
もしそうだと言われても私はどうすればいいのかわからない。
それに本当にそうだったとすれば私はきっと裕ちゃんを憎むだろう。
つんくさんとの結婚だってあんなに祝福してあげたのに・・・。
それがあんな幸せそうにしておいて、私の弟にひどい仕打ちをしてるんだよ?
今までそんなに弟をかわいいだとか思った事なくて、むしろウゼーッって思ってたくらいだったけど、
もしユウキがひどい扱いうけて落ち込んでるのなら、私は家族として許せない。
絶対許せないよ・・・!
でも、この手紙の内容が本当だとは限らない。
だから私は結局ユウキに聞けず、暗いユウキを見守る事しか出来ないまま日は過ぎていった。

1ヶ月程経ったある日の夜、私が仕事から帰ってくるとユウキが出かける用意をしていた。
落ち込んでいたユウキはどこにいったのかというほど、弟はウキウキしていて上機嫌だった。
玄関でスニーカーを履いているユウキの後姿に私は聞いた。
「なんか、いい事あった?」
振り向いたユウキは満面の笑顔でこう言った。
「へへ・・・ちょっとね」
外に出て行くユウキ。
あの笑顔・・・。まさか。もしかして?
なんとなくピンときた私は慌てて靴を履いた。そしてユウキの後をそっとついていくことにした。

437 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:55 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(4) ―

大通りでタクシーに乗り込むユウキ。
私もうまいこと少し後ろを走っていたタクシーをつかまえ、「あの、タクシーを追って下さい」と言った。
ユウキは一体どこへ・・・?
しばらく走った時、見覚えのある景色に気づいた。
この道って・・・歌の練習に行った事のある・・・そうあの人のスタジオがある場所に向かってる?
もしそうだとすればユウキはもうすぐ車を降りるかも・・・。
私はすぐに清算ができるように財布を出しておこうと、バッグに手をつっこんだ。
固い感触が手に触れた。
バッグには財布の他に、最近凝っているデジカメが入っていた。
娘。としての活動もあとわずかだったので、記念にたくさん写真を取ろうと持ち歩いていたのだった。
何か撮れるかもしれない・・・。
私は財布とデジカメをバッグから取り出しておいた。
その時、前のタクシーがハザードをつけた。
「どうします?」
運転手さんに言われ「私も降ります」と言った。
やっぱりユウキは・・・。
閑静な住宅街をいそいそと歩いていくユウキ。
私も後をそーっとついていく。
たぶん、普段だったらバレバレの尾行だっただろう。
でもユウキは全然私に気づかない。もう、周りが見えないほど浮き足立っているようだった。
大きな家の前でユウキは立ち止まった。そして門の前に行った。
外灯がパッとついた。人が敷地に入るとセンサーが反応して外灯が点くようになっているのだ。
「泥棒避けや」とつんくさんが言っていた・・・。
私はカメラを思いっきりズームにしてユウキの姿を追った。
今のデジカメは多少暗くてもたいがいのものは写る。外灯の明かりだけが頼りなのは間違いないけど。
PCに取り込んで、明るくする事も可能なのだ。
ユウキがつんくさんの家に入っていく姿を、私は何度もシャッターを切っていった。

438 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:55 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(5) ―

「やっぱり・・・ユウキと裕ちゃんは・・・」
帰りのタクシーの中、あの手紙の内容が本当だった事を知った。ショックだった。
私は知っていた。
つんくさんは今、日本にいない事を・・・。2泊3日で海外に仕事で行ってることを。
つまり、今家にいるのは裕ちゃん。この間引っ越したって聞いた。
ユウキと裕ちゃん・・・。そんなの信じられないよ。
でも・・・。今日のユウキの笑顔。ユウキがよければそれでいい・・・かも。
ユウキが割り切って付き合ってるなら、私がとやかく言うことじゃないかもね。
家に着いた私は、「何してたんだろ」って思った。
そして、ユウキの笑顔を思い浮かべ「これでいいならいいじゃん!」って感じになった。
つんくさんもかわいそうだけど・・・私の心に閉じ込めておこう。
この事で気を揉むのは今日で終わりにしよう。
私は軽くシャワーを浴びて、寝る事にした。
でも、なんだか探偵モドキの事をしたからか、なんだか興奮して眠れなかった。

バタンッ。
夜中の3時ごろだっただろうか。
隣にあるユウキの部屋のドアが閉まった。
「帰ってきたんだ・・・」
そういえば喉も渇いたし、お茶飲むついでにユウキに声を掛けようと思って、ベッドから抜け出した。
ユウキの部屋の前に立つ。「ユウ・・・」
「・・・ひっく、・・ウグッ・・・・・・・・・ヒック」
ユウキが声を殺して泣いているのが聞こえた。
「ユウキ!!」
私は部屋のドアを開け、赤い目をして泣いている弟の元へ駆け寄った。
「姉・・・ちゃん・・・。・・・ウッ・・・ヒック」
今目の前にいるユウキと、幼い頃近所の子にいじめられて泣いていたユウキの姿と重なった。
「どうしたの!ユウキ!姉ちゃんに言いなさい!何があったのよ!?」

439 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:56 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(6) ―

ユウキはずっと裕ちゃんが好きだった。
思い切って裕ちゃんに告白もした。裕ちゃんははぐらかしてばっかりいた。
でも一回りも歳下の男の子から告白されて、困っていたのかもしれない。
傷つけちゃいけないって思ったのかもしれない。
何度か2人で会ったりしていたそうだ。その時はHな事はしていなかったみたいだけど・・・。
でも結局裕ちゃんはつんくさんと結婚する事になった。
ユウキはとても大きなショックを受けた。
そう、ここまでは私もユウキの片想いって事でしょうがないって思えるよ。
でも・・・つんくさんが留守の日、裕ちゃんはユウキを呼び出した。
そして・・・。

裕ちゃんがユウキにした仕打ちを私は許せなかった。
デジカメで撮った写真をマスコミに流そうとまでしていた。
ただ、マスコミに流すとユウキだってばれちゃ困るし・・・。つんくさんもかわいそう・・・。
そして私が思いついたのは、結婚はさせる。
派手な結婚式を挙げさせておいて、すぐに離婚できないようにする。
そして天国から地獄へ一気に落とすように写真をネタに裕ちゃんを強請る。
ユウキが苦しんだ期間、裕ちゃんにも苦しんでもらおう。
もちろん、私は表に出ない。誰かに強請る役をやってもらうんだけど。

私は結婚式までこんな事をずっと考えていた。ユウキの変わりに私が復讐しようって。
でも・・・そんなバカな事しなくてよかった。
ユウキが私に変装して写真に写っているのを発見した時は、心臓が止まるかと思った。
まさかユウキがつんくさんを嫉妬のあまり刺したのかって。
そんなに裕ちゃんを愛していたの?って。
人を刺すという行為はいけないことだと思う。
でも私みたいに下衆な考えじゃなく、純粋に思うからこそつんくさんを刺したんだ・・・。
私が強請るなんて考えじゃなくて、直接裕ちゃんに文句を言っていたら・・・と後悔した。
だから私はユウキをかばって、「私がやった」と言ったんだ・・・。

440 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 02:57 ID:mA/PkOqI
― エピローグ6 後藤(7) ―

そして、真実はもっと純粋なものだった。
ウェディングドレスの裕ちゃんを1目見たかったユウキ・・・。
さらに、つんくさんを刺してしまった裕ちゃんを目撃し、それをかばったユウキ・・・。
ユウキの事、姉ちゃんは何もわかってなかったね。
ごめんね。ユウキ・・・。そしてゴメンね、裕ちゃん。裕ちゃんもつらかったんだね。

グリーンの便箋を見つめながら私は机の前にずっと立っていた。
思えば、この手紙が始まりだった・・・。
誰なんだろう。
この手紙の送り主。
私の家を知っている人。
ユウキと裕ちゃんの関係を知っている人。
一体・・・誰?
何気なく、封筒を鼻の近くに持っていった。クンクンと匂いをかいだ。
無臭だった。
無臭だったけどなんだろう。
「いちーちゃんの匂い・・・?」

441 名前:仲沢悠子 投稿日:2001/07/30(月) 03:00 ID:mA/PkOqI
うまく文章がまとまらない!
もういっぱいいっぱいです。でもがんばります。
ユウキと裕ちゃんに何があったかはユウキ編で・・・。
次、水曜ぐらいにはいきます。

442 名前:あ名無し娘。 投稿日:2001/07/30(月) 03:01 ID:aTeGhH0o
ごくろお

443 名前:名無し娘。 投稿日:2001/07/30(月) 03:27 ID:ovxOx2fA
仕事柄、小説の持ち込み原稿読む機会あるんですけど、
仲沢さんクラスはなかなかいませんよ、実際。

444 名前:どっちの名無しさん? 投稿日:2001/07/30(月) 03:39 ID:h.hIpFS6
なんかいい!

445 名前: 投稿日:2002/01/13(日) 19:01
この小説って続きが気になる…
これでお終いなのか?

446 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002/01/14(月) 05:21
一応、羊の総合スレには来てくれたんだけどね
偽者かどうか、ちと怖くなってきた

447 名前:若葉マーク 投稿日:2002/01/18(金) 00:57
オモロイです。

448 名前:仲沢悠子 投稿日:2002/02/07(木) 19:43
無理・・・以上

449 名前:え!? 投稿日:2004/06/24(木) 19:37
これってこれで終わっちゃってるんですか!?

450 名前: 投稿日:2004/09/04(土) 10:49
残りが見たいんですが。

451 名前: 投稿日:2004/09/04(土) 11:18
飯田圭織の彼って、尾見谷刑事だったりして。

452 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/08/23(火) 23:46
1から読んだけど、ちぇっと中途半端な
終わり方だね。

現在;郵政民営化で政党が分裂

453 名前:名無しさん 投稿日:2006/02/15(水) 17:29
誰か続き書いて!

454 名前:名無しさん 投稿日:2006/07/21(金) 02:01
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455 名前:名無しさん 投稿日:2007/05/31(木) 05:13
誰か続き書いて!

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